ブラジルで選手としてプレーした経験を活かし、現在は栃木SCの通訳として活躍する古川宏人。助っ人選手として来日するブラジル選手が、日本の環境に適応できるか否かという観点の中で、通訳の果たす役割は決して小さくない。2013年シーズン栃木SCに在籍した三都主アレサンドロ(現:FC岐阜)は、「ブラジル人にとっては、何か困ったことがあればいつも傍にいてくれる心から頼りになる存在。皆の為に自然と動けているところは本当に尊敬に値します。」と吉川へ信頼を寄せていた。通訳とは「ブラジル人と日本を繋ぐもの」と話す吉川の考えを聞いた。
-始めにブラジルでの選手時代の話しを聞かせて下さい。
古川宏人(以下、古川):ブラジルで過ごした時間は1年半と短いものでしたが、通訳という仕事を含め、現在の私を形成する基盤となる経験を積むことができました。選手としては、プロ契約を結ぶことができたのですが、労働ビザが許可されず、試合に出場するができない日々で非常に悔しい思いをしました。帰国後にサッカー留学を支援する『ポンチノーヴァ』を設立したのは、私と同じようなケースがないよう、また今後同じような犠牲者を出さないためにサポートする環境を作りたいと思ったのがキッカケです。
-通訳を志したのはなぜですか?
古川:元々興味があったこともありますが、1番はブラジルとの繋がりを捨てたくなったからです。自分のブラジルでの経験を活かしたいと思いました。私自身もブラジルで言葉の問題に悩まされたので、言葉の重要性は認識しました。その国で活躍するには、文化に適応して、選手がその国に歩み寄ることが大切です。そのキッカケを選手に与えてあげるのが、通訳として大切な仕事だと考えています。
-選手とのコミュニケーションの際に気をつけているのはどういった部分ですか?
古川:選手本人の立場になって考えることです。例えばパウリーニョ選手(2011年~2013年まで栃木SCに在籍)の故障中、病院でのリハビリや食事など言葉のケアだけではなく、多くの時間を共有してきました。理解すべきは本人が一番辛いということで、通訳としての立場だけではなく人対人のコミュニケーションを心掛けてきました。だから、パウリーニョ選手がケガ乗り越えて試合に復帰した時は、本当に嬉しかったですね。
-プライベートでも選手との付き合いはありますか?
選手や選手の家族と一緒に食事に行くことはありますね。場所は、洋食があるレストランやファミレスが中心です。特にブラジル人に人気なのは、サイゼリア。肉が大好物のブラジル人選手にとって、安くて美味しい肉を食べられる場所は貴重みたいです。
-吉川さんから見たブラジル人像とは?
一般的に、ブラジル人は練習の力を抜くと言われています。それは、ブラジルでは練習はダメでも、試合で活躍すればいいという考えが浸透しているからです。しかし、日本では練習でできないことは試合でもできなくて当然という考え方があるので、練習で力を抜くブラジル流では日本で成功できない。だから、来日している栃木SCの選手は練習に取り組む姿勢が違いますね。日本の文化に適応しようとする努力が伝わってきます。チームには4人のブラジル選手がいますが(2013年時)性格や文化に対する適応性などは選手によって個人差があるので、ブラジル人像は一概には言えません。ただ、日本は規律を大切にするから文化があるので、Jリーグを理解すること。理解しようと歩み寄ること。個人的には、この姿勢が日本での成功の近道だと思います。
経歴集:
XVカラグアタツバ(ブラジル)⇒横浜FC通訳⇒ポンチノーヴァ取締役⇒栃木SCコーチ兼通訳(ポンチノーヴァより出向中)
ポンチノーヴァサッカースクールHP
http://pnfutsalarea.com/school.html
この内容の書き下ろしが「南米と日本をつなぐ者達」(ギャラクシーブックスより6月頃出版)に収録されます。
(文・写真 栗田シメイ Twitter:@Simei0829)