■男子サッカー関係者も驚いた後任人事
常勝軍団のINAC神戸。昨年は、リーグ戦3連覇、カップ戦、皇后杯、モブキャスト杯を制し、史上初の4冠を達成した。
優勝の立役者でもあった石原監督に、INACは留任を要請したが、本人は「次のステップに行きたい」と、アメリカリーグでの指導を希望。勇退という形で、sky Blue FCのコーチに就任した。
驚いたのが、後任人事。女子サッカーの指導は初となる、J2鳥取の前監督だった前田浩二氏に決まった。
女子サッカー界は未経験というだけでなく、前田新監督は成績に関して「いわくつき」でもある。一昨年のアビスパ福岡の監督時代から、昨シーズン途中より監督に就任したガイナーレ鳥取での2年間で、公式戦で一度も勝利していないのだ。J2・JFLの入れ替え戦でもカマタマーレ讃岐に敗戦し、鳥取をJ3に降格させてしまった。采配には疑問視される点が多く、ファンのみならず、主力選手からも不満が噴出してしまうなど、監督としてのキャリアは、決して輝かしいものではない。
■盛り上がりに欠けるなでしこリーグにとって・・・
近年はINACの一強時代が続いたことで、「応援に行かなくても勝てる」というファンが出てきてしまい、観客動員数も年々減少していった。そのことが、なでしこリーグ全体にまで波及し、盛り上がりに欠けてしまうという問題も出てきていた。
そんな中での前田氏の監督就任。ネット上などでは、「リーグ全体のことを考えての、わざとの後任人事か」と、まことしやかにささやかれるほど予想外の人事であった。
加えて、チームからは昨年の主将・川澄、リーグ得点王のゴーベル・ヤネズ(両選手ともに期限付き)、なでしこジャパン不動の右サイドバックの近賀が海外に移籍。大幅な戦力ダウンも心配されていた。
■開幕2連敗。しかし、チーム関係者からは予想外の声
事実、INACはリーグ戦初の開幕2連敗を喫してしまう。
監督自身、不名誉な記録を30に伸ばし、クラブ的にも暗い雰囲気があるのではと思われたのだが、クラブ関係者は意外なことを口にした。
「今年のINACは、雰囲気がとても良い。若手が伸び伸びしている」「ベテラン選手が若手に歩み寄って、より積極的に話しかけるようになった」
その理由の一つが、前田監督にあるというのだ。前田監督はベテランや若手、レギュラー組やサブ組関係なく、選手一人一人に接し、アドバイスをしたり、談笑したりする。実際に、選手たちからも、成績が低迷しているにもかかわらず「選手一人一人をしっかりと見てくれている」と上々の評判だ。
■昨年と今年のINACの大きな違い
昨年までのINACの練習を見たことがある方はご存じであろうが、レギュラー組とサブ組が、はっきりと別れた状態で、終始トレーニングが行われていた。なでしこジャパンに名を連ねる偉大な先輩に、後輩が遠慮している部分も多く見られ、固定されたレギュラー組に対して、サブ組のほうはモチベーションが上げにくいであろう場面もあった。
一方の今年は、クールダウンのランニングを選手全員で一緒に走るなど、今までになかった光景がある。
今年、「ベテランと若手の融合」をINACは掲げているが、その一手を担っているのが、前田監督だ。
前田監督本人も監督としてのモットーは、選手に対する「目配り 気配り 心配り」で、男子の監督時代から心掛けているという。
■監督オファーの理由は・・・
チーム関係者も「並々ならぬ決意をしている」「気配りができる方なので、男子より女子相手のほうが向いているのではないか」と、監督を信頼する理由を明かす。
「若手の育成」がクラブの方針であり、「女子の若手育成に期待ができる」という点が、前田氏への監督就任のオファーに至った理由の一つであったようだ。
INACの文会長も、「3敗ぐらいはしてもいい。若手が試合でチャレンジし、経験を積んでくれれば」と、敗戦に対しての猶予をある程度見ている。
チーム関係者も、「このチームは、結成からどんどん良くなっていっている。結果も付いてくる」と、10代の選手がチームの半数を占める「新生INAC」に期待を寄せる。
「今までとは違う強さ」を見せるINAC神戸のカギを握るのは、まぎれもなく、不名誉な記録を止める前田浩二監督だ。
(取材・文:谷口こういち)
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